15世紀、コルマールで生まれたマルティン・ションガウアー。
アルザスコルマールのウンターリンデン美術館やドミニコ会教会に飾られる数々の宗教絵画が有名だ。
『バラの茂みの聖母』
細部まで意味のある絵画を読み解くのは、面白い。
聖母マリアが、木のベンチに座り、幼いイエスを腕に抱いている。マリアの頭上には大きな光輪があり、青いドレープをまとった2人の天使が彼女を祝福し、冠を被せようとしている。
画面上に遍在する赤い色(イチゴ、バラ、牡丹、聖母のドレス)が、
キリストの受難 を喚起させる。
大きな赤いローブとマントをまとった聖母マリアは、バラの茂みの中、安定感のあるピラミッド型の構図の中央に配置されている。
マリアの顔立ちの優しさ、母性的な仕草にも関わらず、マリアとイエスは、それぞれ異なる方向を向いている。二人を待ち受ける運命の分かれ目を意味するのか。幼いイエスの頭部は、3つに分かれた光線に包まれ、十字架を形成している。
閉じた木製の格子垣には、マリアの
処女性 が表現されている。愛と慈悲を象徴する赤いバラの中に、処女の純潔とキリストの死を思い起こさせる一輪の白いバラがあることによって、その美徳がさらに強調されている。(聖母は、清純であることを意味する棘のないバラに例えられることもある。アダムとエヴァが罪を犯す以前は、バラには棘がなかったと言われる。)
マリアの左には、謙虚さを表すスズメ(moineau)と、キリストの受難を思わせるズアオトリ(pinson des arbres)、コマドリ(rouge-gorge)がとまっている。
格子垣やバラの木に降り立った8羽の鳥たちは、鳥類図鑑に載っていそうなほど自然な描写で描かれている。
右には、ゴシキヒワ(chardonneret élégant)
3羽 (うち1羽は幼鳥)がとまっている。とげの多いアザミの実を好んで食べるこの鳥は、イエス・
キリストの受難 (キリストの
茨の冠 )を連想させる。3羽は、父(神)、子(イエス)、聖霊が、本質において一つであることを示す
三位一体 を表す。
その上には、シジュウカラ(mésange charbonnière)が、さらに右上の横棒にはチフチャフ(pouillot véloce)がとまっている。
マリアの足元、マントとローブの間には、野イチゴの木があり、白い花と実をつけている。白い花は純粋さと無垢を、赤い果実は受難と殉教者の血を思い起こさせる。イチゴの葉は、
三葉 の形から
三位一体 を表す。
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