『最後の授業』から、世界を考える

昔、日本の教科書に載っていたアルフォンス・ドーデの『最後の授業』という作品。
最後の授業

作品の舞台は、1871年、フランスとドイツの国境付近に広がるアルザス地方。普仏戦争で、フランスはプロイセン(ドイツ)に負け、アルザス地方はプロイセンに割譲されることになる。学校ではフランス語を教えてはならないことになり、フランス語教師が最後の授業を行うのだが、そのうち悲しみで言葉が途絶え、黒板に「Vive la France!(フランス万歳!)」と書いて授業を終える。

占領され、母国語を奪われたフランス人の怒りと悲哀が伝わってくる感動的な教材かと思いきや、話はそう単純ではない。
アンシの描く授業風景
アルザスの画家アンシの描いたアルザスでの授業風景

アルザス地方は、1000年以上もの間のドイツの影響と、300年ほどのフランスの影響を受けている地域である。中世時代、神聖ローマ帝国の一部だったアルザスでは、ドイツ語の一方言であるアルザス語が話されていた。17世紀にフランスの一部となってからも、アルザス地方では、アルザス語が話されていた。フランス革命を経て、フランス国家に対しての忠誠心は持っていたものの、話されている言語、母語はアルザス語であった。19世紀末から第一次世界大戦まで、アルザスはプロイセン(ドイツ)に占領されるが、アルザス人にとって、ドイツの言語文化に溶け込むことは、それほど難しいことではなかった。
トミーの描く戦争
アルザスの画家トミー・ウンゲラーの描いた戦争風景

『最後の授業』では、まるでアルザスの人々が外国語であるドイツ語を占領軍に押しつけられているような書き方をしているが、そうではないのである。
南仏出身でパリに住んでいたドーデは、アルザス人の母語アルザス語の上に、国家語フランス語を置いて賛美した。
当時のパリや世界の人たちは、単純にそれを評価した
レオ・シュヌグの描いた戦争の絵
アルザスの画家レオ・シュヌグの描いた戦争風景

近代の民族国家は、ほとんどの場合、複数の民族を統一(支配)することによって成立している。ときに国家は、力で抑え込んで国家的統一を保持しようとする。その国家に、暴力と貧困、腐敗がはびこっていたら、どうなるか。そこに、政府間組織、企業、利益団体などの利益が関わったら、どうなるか。
誰が善人で、誰が悪人か。この世界を簡単に善悪で捉えることは、非常に難しい。
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ぶるぐれんとうざき

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